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3-30 ノンストップトーキングドライブ

***30*** 

有芯は、早くも自らの限界を感じ始めていた。彼は子供の扱いが不得手で、子供が好きなわけでもない。朝子の子とはいえ、初対面の5歳児の面倒をたった一人で見るのは、荷が重過ぎた………今になって有芯はそう痛感したが、今更引き返すわけにも行かない。彼は結局何の対策も立てられないまま、ただこの状況を恨むだけだった。

いちひとは有芯の運転する車の助手席で、最初の1時間ほどをほぼ無言で過ごしていた。

しかし、その後がすごかった。

始まりは、些細な質問だった。

「おじちゃん」

やっと喋った、と思い有芯はほっとした。「何?」

興味と疑惑が合わさったような目で有芯を見つめながら、いちひとは言った。「おじちゃん、誰?」
「誰? って。……なんて言ったらいいんだろう」まさか、“ママの愛人”と言うわけにもいくまい。

有芯が戸惑っていると、別の質問が来た。

「お名前は?」

有芯はまたほっとして答えた。「ああ、雨宮有芯、っていうの」

いちひとはケラケラ笑った。「あまみ、やゆし?! 変な名前~」

有芯は苦笑した。「一回で分かってもらえることが少ない名前なんだよ。あ・ま・み・や、ゆ・う・し・ん!」

「僕は、浦原一人。う・ら・は・ら、い・ち・ひ・と!」

「知ってる」

「何で?」

「朝子……お前のママに聞いた」

「お前じゃない、いちひとー!!」

「ああ、ごめん」

それから立て続けに質問攻めに遭い、答えられなくても繰り返し聞かれ、黙っていると何だか分からない歌を大声で歌われた。

最初のうちは、母親がいなくなって混乱も戸惑いもあるだろうし、知らない男と二人きりで不安なんだろうと大目に見ていた有芯だったが、それももう限界に近づいていた。

いちひとはまた次の質問に出た。彼はもう2時間以上も、ほぼ止まらずに話し続けている。「ねぇ、この道あと何センチ続いてるの?」

「わかんねぇよ!」

有芯が思わず怒鳴ると、いちひとは黙りこくった。しばらく気まずい時間を過ごしてから、有芯は少し悪かったかなと思い、自分からいちひとに優しく話し掛けた。

「ごめんな、大きい声出して。腹減ったか?」

いちひとは途端に元気になった。「うん! 僕やきそば食べたい!」

有芯は疲労感が全身にくまなく行き渡るのを感じグッタリした。「やきそば……そんなん食えるところなんて……」

「おじちゃんやきそば作ってよ~」

「えええ?! 何で出先でそんなもん作れるんだよ……!!」

「だってさ、これ! これあるよ?! これで作れるんでしょ?! この前、パパが作ってたもん!」

いちひとの指差した後部座席には、積みっ放しのカセットコンロがあった。有芯は舌打ちしたい気持ちを堪え、溜め息をついた。このやろう、目ざとくこんなもの見つけてやがったのか………。

有芯は半分ヤケで覚悟を決めた。篤に負けじと思う対抗心も、心の隅に確かにあった。

「……わかった。ただし!! 俺はママじゃねぇから時間かかるぞ! それからどっかで買い物するからな! それまで、静かに! 大人しく! 待ってるんだぞ、分かったか?!」

「わかったー!」

無邪気に答えるいちひとを見て、有芯は溜め息をつきつつ苦笑し、後ろ頭をガサガサと掻き回した。




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